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本日は、モリンホールの魅力について、お話をします。
写真は、モンゴル国のモリンホール製作者、バヤルサイハンさん作のモリンホールです。

◆モリンホール?馬頭琴?◆
日本では現在、中国語と共通の「馬頭琴」の名称で定着しています。

一説には、明治期の日本の民族学者の鳥居キミ子が、「モリン(ウマの)・トルゴイ(頭の)・ホール(楽器)」に漢字をあてたことが始まりとされています。

その後、日本で「馬頭琴」の名称が一般に定着したのは、大塚勇三が中国語の文献をもとに再話した、「スーホの白い馬」が国語の教科書で採用され、教育界で広く普及してからです。

私(みずばしょう)は2006年から、モリンホールはモンゴルを象徴する楽器であり、日本語でも「馬頭琴」でなく「モリンホール」優先するべきだという主張をはじめ、各方面に呼びかけています。
年々少しずつ、共感する者同士、「モリンホール」の表記が増えてきております。

◆中国が政治的に利用している「馬頭琴」
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2008年8月の北京オリンピックは、80名のモリンホール演奏によってはじまりました。
モンゴルは中国の少数民族のひとつ。
そうした印象を、世界にPRするものでした。


「馬頭琴は中国の少数民族の楽器」として国際的に認識されていく傾向には、文化的な対策が必要です。


私(みずばしょう)はこのことを、2008年9月1日の産経エクスプレスの記事でも主張させていただきました。

◆モリンホールの魅力
モリンホールは近年、少しずつ知名度を増し、日本人演奏者も確実に増えています。

モリンホールの魅力である特徴ある音色は、「草原の」、「遊牧民の」、「素朴な」という、モンゴルのイメージで語られることが多いと思います。

しかし、そうしたイメージからいったん離れて、あらためて考えてみたとき、モリンホールの魅力の真髄の一端が、垣間見えてきます。

◆モリンホールの真髄 音響特性
モリンホール製作者のバヤルサイハンさんは、かつて、私にこう語ってくださいました。

「モリンホールと他の楽器を一緒に演奏すると、他の楽器の音は負けてしまいます。」

ここで言う「他の楽器」とは、モンゴルの他の民族楽器ではなく、西欧のクラシックを中心にした楽器を指しています。

モリンホールの真髄のひとつは、その音響特性にあります。

モリンホールの音色には、音量の高低ではない独特のパワーがあります。
それはおそらく、尺八や能管などの音色に共通する非定常音(ミクロのレベルで豊かに変化し続けている音)に由来しています。

また、人間の可聴領域外とされる高周波も豊富に含んでいます。


高周波は音として知覚されない一方、脳幹の血流を良くする効果があることが科学的に証明されています。
そのため、ブルーレイディスクは、従来のCDで収録できなかった高周波が収録できる仕様になっています。

モリンホールはこうした音響特性から、脇役の楽器として中途半端に扱えば、主役の歌や楽器を食ってしまうパワーを有しています。
この点、特にオリジナルの楽曲で挑戦されるアーティストにとっては、チャレンジし甲斐のある楽器とも言えるでしょう。

◆モリンホールの真髄 成長し続けている楽器

モリンホールのもうひとつの真髄は、現在もなお成長し続けている楽器であるということです。

モリンホールは、擦弦楽器の起源としてその歴史は古いものの、現在の形にいたったのは20世紀半ばになってからという、ある意味では非常に新しい楽器です。

当時のモンゴル人民共和国(現在のモンゴル国)ではソビエト連邦共和国の、南モンゴル(内モンゴル自治区)では中国の影響をそれぞれに受け、発展していきました。

共鳴胴の表が皮革から木の板となり、f字孔がつけられ、共鳴胴の内部に魂柱がつけられるなど、ヴァイオリンのチェロに共通した技術が導入されていきました。また、装飾や彩色なども、地方や製作者ごとにさまざまなものが生まれました。
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バヤルサイハンさんのモリンホール。ウマの彫刻が実に見事です。

モリンホールは現在、モンゴルの象徴として、同時に世界的な楽器として、その向上に積極性に取り組む職人さんや演奏家さんが、確実に育っています。

しかし、モンゴルは20世紀の革命の時代、伝統文化が徹底的に否定され破壊された歴史があります。
そのダメージはいまだ回復していません。
モリンホールもまだ、品質や評価や市場価格において、ヴァイオリンやチェロなどのレベルに至っているとは言えません。

モリンホールの成長は、モンゴルの文化の復活と成長に直結しているのです。

ここで紹介したモリンホールの魅力は、そのほんの一部です。
わずかでもご参考になれたのなら幸いです。
是非とも皆さんも、モンゴルで、日本で、モリンホールの魅力を感じ、楽しみ、考えてみてはいかがでしょうか。


モンゴル国のモリンホール・カルテット、Domogさんの演奏。
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