校長室1
【写真】新モンゴル小中高のラハグワドルジ校長と小学校の子どもたち(写真と記事は関係
ありません)

 ウランバートルを訪問したとき、まず新モンゴル小中高一貫教育学校のラハグワドルジ校長にあいさつした。校長室で懇談していたら、突然、男の子が入ってきて、テーブルの上にあった菓子盆から飴を取って口に入れた。「なんだ、この子は」と私は驚いた。そばにいた通訳の職員が「校長の息子さんです」と説明した。「あら、そうか」と私は納得し、席を立ちながら、その子にあいさつし握手した。

 男の子は、飴をなめながら、何事もなかったかのように、部屋を出た。たぶん、その子は、授業の休み時間に、父親の様子を見にきただけなんだと思う。

 私は、元校長のガルバドラッハ(ガラ)さんと息子のダウガドルジ君を思い出した。ダウガ君も、よく校長室に出入りしていた。

 ガラさんは、息子が来ると「おう、ダウガ、よく来たな」と日本語で話しかけた。そして、息子を抱きしめ、ほおずりしながら、パソコンの画面を見せた。「いいか、お父さんは今、こんなことをやってんだぞ」といった風だった。ダウガ君は現在、英国の大学に留学中だ。

 私は、また、この学校で日本語を教えるゲレルマさんが、職員室で女子生徒と話している姿を見たことがある。ゲレルマさんは「うちの娘です」と説明した。先生と生徒、母親と娘は同じだった。

 私は今回、新モンゴル日馬富士学校にも行った。創設者理事長・日馬富士(本名ビャンバドルジ)さんの妻バトトールさんと会い、学校の食堂で、鶏肉のから揚げ定食をごちそうになった。その後、隣の喫茶店で、テイクアウトのコーヒーを受け取りながら、国際交流の先生たちに会うため、階段や廊下を歩いていた。そのとき、男の子が現れ、バトトールさんと二言三言、会話をした。バトトールさんの息子さんだった。

 私は「この子、どこかで見たことがある」と思った。元横綱の白鵬さん(宮城野親方)の断髪式のとき、日馬富士さんは、男の子の手を引きながら式に臨んでいた。その子だった。

 バトトールさんによると、夫は、わが子に相撲の土俵を体験させたいと考え、断髪式に同行させたのだった。私は、ユーチューブで、このときの光景を見た。日馬富士さんは、白鵬さんの肩を抱き寄せ、何か言葉をかけた。白鵬さんは涙ぐみ、感動のシーンとしてニュースにもなった。その様子が取り上げられがちだが、もう一つ、日馬富士さん親子の姿もあったことを忘れないでもらいたい。

 私は、今回、日本大使館に近いコンチネンタルホテルに泊まった。このホテルは5回目だった。ホテルの事務室周辺には、女性マネジャーと小学生ぐらいの女の子が一緒にいる光景があった。

 日本語ができる従業員に聞いた。従業員は「事務室に上司の娘さんがいるのは、正直言って、わずらわしい感じもします。でも、仕方ないですね。こんなのは、モンゴルでは普通のことですから」と話した。



▽森修 もり・しゅう 

1950年、仙台市生まれ。元河北新報記者。1998年、山形市で勤務していたとき、たまたま入ったバーでアルバイトしていたモンゴル人の留学生と出会う。以来、モンゴルの魅力に取りつかれ、2005年「モンゴルの日本式高校」、2012年「あんだいつまでも新モンゴル高校と日本」をそれぞれ自費出版。

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