馬頭琴演奏会

【写真】聴衆にあいさつするモンゴル国立馬頭琴楽団の皆さん。立っているのはコンサートマスターのジグジットドルジさん茲隼愆者のトブシンサイハンさん=2022年11月30日夜、東京・NHKホール

 モンゴルの大統領閣下と日本の天皇陛下がおでましになるかもしれない―。この情報は、事前に有力筋から得ていた。モンゴル政府が主催する演奏会。モンゴルと日本が外交関係を結んで50年になるのを記念する企画。それは、あり得るし、ぜひ実現してほしいと期待していた。しかし、一方、現実問題として、警備の都合もある。本当かなあと疑問に思う気持ちもあった。

 行ってみたら本当だった。双方の国家元首は夫婦で来た。「皆さま、着席したままお待ちください」との放送はあった。しかし、VIPが現れたと分かった聴衆は、自然に総立ちとなった。拍手が巻き起こった。こんなハプニング、臨場感は、CDやユーチューブでは味わえないだろう。まさに生演奏のだいご味だった。

 演奏は、ジャンツンノロブ作曲「モンゴル・アエルゴ」(モンゴルの調べ)で始まった。ウインナーワルツの演奏会では、ヨハン・シュトラウスの「美しく青きドナウ」が定番だが、それと同じように、このモンゴルの調べは定着した感じだ。

 ジャンツンノロブの「白い仏塔」「わが故郷、わが馬」やシャラブの「心の旋律」などCDにもなっているおなじみの作品が続く。私は、平原のかなたの群青色の山並みを思い浮かべながら聴いた。

 今回の演奏会で、私が注目したのは、シャラブ作曲「ヤトガ(モンゴル琴)のための変奏曲」、スフバータル作曲の馬頭琴四重奏「ツェツェグ湖畔にて」、ウルジーバヤル作曲「馬頭琴(モリンホール)協奏曲第5番」の三つだ。いずれも民族音楽の枠を超えて、新しい可能性を追究した作品、演奏に感じたからだ。

 「ヤトガのための変奏曲」は、穏やかな優しい音色を奏でる琴に対して、ムンフトクトホさんによる、たたきつけるような躍動感あふれる演奏を織り交ぜた作品。一種のパフォーマンスというか、まるで現代音楽のような内容に仕上がっていた。

 四重奏曲「ツェツェグ湖畔にて」は、アマルバヤルさんら4人の馬頭琴奏者が演奏した。西洋楽器による四重奏曲、五重奏曲はいっぱいあるが、馬頭琴では珍しいのではないか。このような作品は、どんどん出てほしいし、演奏してもらいたい。

 「モリンホール協奏曲」は、普通は木製の共鳴箱が、三味線と同じように皮革でできている楽器を使って演奏された。私は、馬頭琴の心得がある留学生や日本人と一緒に鑑賞したのだが、二人によると、音色はやわらかく、こもったような感じになるのだという。このままだと、ほかの楽器に押されてしまうが、そこを、コンサートマスターのジグジットドルジさんは、力強い存在感あふれる演奏でカバーしていると解説してくれた。このような馬頭琴の協奏曲は、四重奏曲と同じように、もっと出てきてほしいと思った。

 モンゴル人のトシグト君のピアノと、日本人の福田壱君のトランペットによる映画「ピノキオ」の主題歌「星に願いを」も良かった。二人とも11歳。この演奏をプログラムに織り込んだのは、日モの交流を象徴しているように私には思えた。これから、どんどん発展し伸びていくという意味だ。

 トシグト君の父親は馬頭琴のアマルバヤルさん、母親はヤトガのジャンバルスレンさん。姉は横浜国大の留学生アリウンジャルガルさんで、この日は、ステージにマイクや譜面台を運ぶ裏方を務めていた。この日の演奏会は、アマルバヤルさんが家族ぐるみで支えていた。

 今回の日本公演は全国13カ所。それぞれ何らかの交流がある土地が選ばれた。演奏会では、どんな感動が生まれるか。音楽は、言葉を超えて、人と人を結びつける。皆さん、ぜひ、会場に足を運んで、生演奏のすばらしさを味わっていただきたい。




▽森修 もり・しゅう     

1950年、仙台市生まれ。元河北新報記者。1998年、山形市で勤務していたとき、たまたま入ったバーでアルバイトしていたモンゴル人の留学生と出会う。以来、モンゴルの魅力に取りつかれ、2005年「モンゴルの日本式高校」、2012年「あんだいつまでも新モンゴル高校と日本」をそれぞれ自費出版。




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