アマルバヤルさん

【写真】ガルバドラッハ新モンゴル学園理事長の叙勲祝賀会で演奏するモンゴル国立馬頭琴アンサンブルの皆さん。一番左がアマルバヤルさん=2022年10月28日、ウランバートルのトリプルイベントホール

 モンゴル国立馬頭琴アンサンブルの演奏会が11月30日、東京・NHKホールで開かれる。モンゴル日本外交関係50周年、楽団設立30周年を記念して、モンゴル国の外務省と文化省が主催する。この演奏会を前に、楽団のソリスト、アマルバヤルさんに話を聞いた。アマルバヤルさんの長女、アリウンジャルガルさんは横浜国大の留学生。私が訪モしたとき、帰省していたので同席、通訳してもらった。

 楽団の名称は通常「アンサンブル」、場合によっては「交響楽団」も使う。楽団員は38人。伝統楽器の馬頭琴(モリンホール)のほか、モンゴル筝(琴)「ヤトガ」、ピアノ、打楽器、チェロなど、さまざまな演奏家がいる。ホーミーの使い手もいる。アマルバヤルさんの妻でヤトガ演奏家ジャンバルスレンさんも楽団員だ。

 本拠地は、スフバートル広場の東側の中央文化会館(文化宮殿)。会館の東側に出入口があり、こちらから入ると、楽団員が各部屋に分かれて練習している。現在の指揮者はトフシンサイハンさん。

 モンゴルには、もう一つ、伝統芸術劇場(ドラマ劇場)を本拠地にする国立伝統音楽交響楽団がある。こちらは、毎年夏の夕方、観光客向けの演奏会を開いているので、見た人は多いのではないか。馬頭琴だけでなく、歌や踊り、曲芸まで出し物は多く、気軽に楽しめる。指揮者はボヤンバートルさん。

 二つの楽団は、音楽の傾向、カラーが異なる。アマルバヤルさんの楽団は、伝統楽器の馬頭琴が主役ではあるが、映画音楽など幅広く西洋のクラシック音楽に取り組んでいるように私には思える。

 アマルバヤルさんは「馬頭琴はバイオリンとチェロの中間の音色で、だれの耳にも響く。伝統楽器ではあるが、伝統音楽に限らない可能性を秘めていると思う」と解説する。

 私が、アマルバヤルさんの楽団の演奏を初めて聴いたのは、2016年10月、福島県相馬市でだ。日本の10カ所で公演したが、最初は相馬市だった。東日本大震災で大きな被害を受けた相馬市が「鎮魂と国際交流の夕べ」として主催した。

 公演前、楽団は、だれもいない海に向かって演奏した。立谷秀清市長が、冒頭の主催者あいさつの中で、この裏話を披露した。公演では、国立オペラ劇場のソプラノ歌手エンヘナランさんが、「花は咲く」を日本語で歌った。モンゴルを代表する楽団が福島の港町に来て、鎮魂の気持ちを込めて演奏している姿を見て、私は強烈な印象を持った。

 今回の日本公演は、30日のNHKホールを手始めに12月20日の東京・板橋区まで全国14カ所で予定している。公演では、アマルバヤルさんの息子のトシグト君、11歳がピアノを受け持ち、日本人の11歳がトランペットを担当し、デイズニー映画「ピノキオ」の主題歌「星に願いを」も演奏するという。楽しみだ。



チンギス・ハンとモンゴル帝国の歩み
ジャック・ウェザーフォード
パンローリング株式会社
2019-10-12


▽森修 もり・しゅう

1950年、仙台市生まれ。元河北新報記者。1998年、山形市で勤務していたとき、たまたま入ったバーでアルバイトしていたモンゴル人の留学生と出会う。以来、モンゴルの魅力に取りつかれ、2005年「モンゴルの日本式高校」、2012年「あんだいつまでも新モンゴル高校と日本」をそれぞれ自費出版。
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