皆様、お世話になります。寄稿者のひでです。
DSC_99622022年4月15日、寄稿者撮影

さて、皆様も既にニュースでご存じかと思いますが、JR恵比寿駅西口にある地下鉄日比谷線への行き先案内のうち、ロシア語で書かれていた表記を利用者の抗議でJR側が急遽取り下げる事件がありました。

○東京新聞 4月15日付
『JR恵比寿駅、「不快だ」の声受け、ロシア語案内表示を覆う 「過剰反応」批判受け、15日に撤回』
https://www.tokyo-np.co.jp/article/171785

○産経新聞 4月15日付
『JR恵比寿駅、ロシア語案内が復活 「戻すのが妥当」』
https://www.sankei.com/article/20220415-V4V7EJABJZJXTEKOURVC33EQN4/

○時事通信 4月15日付
『駅のロシア語案内覆い隠す JR東日本、批判受け撤回―東京』
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022041500461&g=soc

ロシアによる侵略が続いているなか、ロシア文化に対する不快感を露わにする人がいても不思議ではありません。

が、一体どの部分に「不快感」を露わにしたのか?そしてその「不快感」が健全なものなのか?すこし俯瞰してみたいと思い執筆してみました。
何故なら、キリル文字はモンゴルでも使用されているからです。

・キリル文字とは?
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キリル文字のアルファベット

もしかしたら、日本人にあまり馴染みの薄い「キリル文字」表記に対して嫌悪感を抱いたのかもしれません。そもそも、文字には大別して以下の文字があります。

1・アルファベット(音素文字)
2・音節文字
3・表意文字

1のアルファベット(音素文字)はご存知の通り、ひとつひとつの言語の音(子音・母音)を表す文字です。英語をはじめ、西欧の言語で使用されているアルファベットは「ラテン文字」と呼ばれています。

2の「音節文字」とは聞きなれない言葉かと思いますが、ようは日本語の仮名(平仮名・カタカナ)のように、一文字で複数の音を表記する文字のことです。例えば平仮名の「か」は子音の「k」と母音の「a」を合わせた発音を一文字で表した文字になります。

3の「表意文字」とは漢字のように、文字が発音ではなく、単語の意味を表した文字になります。例えば漢字の「日」は単に(hi)の音を表すのみならず、「日」の文字のみで太陽の意味を表す。

キリル文字は,離▲襯侫.戰奪函焚餐琶源)になります。

・キリル文字の父、聖キュリロス(スラヴの亜使徒キュリロス)
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聖キュリロス(827年 - 869年)は中世東ローマ帝国の知識人、キリスト教の修道士、そして神学者であります。正教会のみならず、カトリック教会・聖公会・ルーテル教会においても聖人となっています。(元の名はコンスタンティノス)

現在のロシアなどで使用されるキリル文字の考案者と考えられていたが、彼が実際に考案したのはキリル文字の前形にあたるグラゴル文字であり、実際のキリル文字は彼らの弟子たちによってなされたと考えられます。

・モンゴルでなぜ使用されているのか?

この件に関してはタケシ編集長が詳細に書かれていますので是非一読して頂きたいです。

中国に奪われたモンゴル文字を復活させるその意味とは?
http://mongol.blog.jp/2020/03/22/52013613

一人の日本人として補足を加えると、モンゴル人のすべての人々が好き好んでキリル文字を使用しているわけではない。
ただし、モンゴル文字は縦書き表記しかないなど、IT化の進んだ21世紀において必ずしも利便性のある言語とはいえないジレンマを抱えている。その一点が課題となっていると思います。

・戦争と「敵性語」
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ひとたび外国と干戈交えてると敵国の文化や宗教、音楽や料理を否定する風潮というのは古今東西繰り返されてきた事柄でもあります。
日本も御多分にもれず、太平洋戦争の際には国民運動になったことがあります。

昭和19年(1944年)、中学校国定教科書『音楽』にイギリス国歌『国王陛下万歳』が掲載されていたことが堀内一雄衆議院議員によって指摘され、文部省当局は即時削除を命じている。また、英語・音楽以外でも教科書における「敵性箇所」は順次訂正されることになった。当時、国定教科書『英語』の編集委員だった星山三郎の資料によると、以下の表現を「排撃」するよう求められていたそうです。

・親英・親米的な表現。
・西暦の多用(ただし禁止はしてない)。
・米英の物質文明を謳歌する内容。
・日本を侮辱した表現。
・英米の文物に最上級の修飾語を付ける表現。

しかし、「敵性語排撃」はあくまでも民間や文民官僚の「国民感情への配慮ないし忖度」によって主導されていた面が大きく、とうの軍部は作戦遂行上、また武器調達するうえでも、英語排斥するのは困難であり、原則陸海軍では「敵性語排除」は行われていない。

そもそも帝国陸軍でも軍団や師団配置を表記する場合、アルファベット(ラテン文字)を使用していたわけで。
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226事件の際の軍配置図

軍歌『加藤隼戦闘隊』も1番の出だしから「エンジンの音轟々と 隼は往く 雲の果て」である。
加藤隼戦闘隊
【軍歌・歌詞付き】「加藤隼戦闘隊」旧陸軍士官学校・旧海軍兵学校出身者
https://www.youtube.com/watch?v=6q-3XDRAZH0


・さいごに
暴挙ともいえるプーチンによるウクライナ侵略が続くなか、確かにロシア語表記に使用もされている文章を見て腹が立つ人がいるのも確かなんだろうが、結局、

文字を自主規制したところでウクライナ戦争の終結や人道支援にはまったく寄与しない。ただ不機嫌になった人のストレス解消になるだけ。

という事だけはハッキリしているわけであり、過去の「敵性語排除」の歴史的事実からいってもそれはその通りとしか言えない。

ロシア語(文字?)だから排除したいという短絡的な感情からは、

○ロシアと同じくキリル文字を使用するウクライナ人その他民族への配慮の欠如。
○同じアジア人であるにもかかわらず、キリル文字を使用するはめになったモンゴル人に対する考察力の欠如。
○いっときの、かつ一部の国民感情(≒同調圧力)によって言論の自由に制限がかかる可能性。
○今回の事件が広くネットやメディアで海外にまで拡がった際の、外国人の対日意識に与える影響。


という懸念材料しか見えてこないのが現実です。

寄稿者:ひで
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