MongolMeaning
ケンブリッジ英英辞書のMongolより、モンゴルの第二の意味で「ダウン症を持つ人に対する非常に攻撃的な言葉」と定義している。

※不快になる話ですが、こういう偏見が存在しているというのを事前に知っておく必要はあるかと思います。いざ偏見や差別に対峙したとき、どう対応するか心の準備ができるようになるためです。


ちょっと前の話ですが、ベルギー出身のレッドブルに所属するF1レーサーのマックス・フェルスタッペン氏のレース中での発言が物議を醸しだしました。

彼がレース中に他のレーサーと衝突をしてしまった際に、罵る言葉として「Mongol(モンゴル:知恵遅れ)」、「Retarded(馬鹿野郎、知恵遅れ)」と言ってしまいました。その件が明るみに出て、モンゴル政府が国連を通して、レッドブルにクレームを出したとのことです。

ニュース記事(日本語):
F1エミリア・ロマーニャGP金曜会見(2):フェルスタッペンが接触時の暴言を謝罪「ランスを侮辱する意図はなかった」


ニュース記事(英語):
Max Verstappen: Mongolian government registers official complaint with UN against Red Bull driver’s ‘mongol’ comments at Portuguese GP


Red Bull warns Verstappen over mongol insult


侮辱後が伏せられていますが、これが実際のレースの様子らしいです(YouTube)


そもそも、なぜ「モンゴル」という単語が「Retarded」あるいは「Basterd」みたいな行儀の悪い意味で使われるのか、よくわかりませんでした。

素朴に、なぜ?と疑問に思いました。

調べてみると、イギリスの新聞紙The Independent(インディペンデント)にて、英国に住むモンゴル人によって体験談を踏まえて詳しく書かれていました。

以下、拙訳です。


なぜ『モンゴル』『モンゴロイド』『モンジー』という言葉が、いまだに侮辱の意味で使われているのか?」Why are the words 'mongol', 'mongoloid' and 'mongy' still bandied about as insults?



https://www.independent.co.uk/arts-entertainment/tv/features/why-are-words-mongol-mongoloid-and-mongy-still-bandied-about-insults-9878557.html

在英のモンゴル人女性・ウガナー・ラムジーさんは、彼女の息子のようなダウン症の人たちだけでなく、彼女の民族の誇りである名前がどのようにして攻撃的な言葉として使われるようになったのかを探る。


↑ウガナー・ラムジーさんのTwitterアカウント

4年前にスコットランドの病院で次男を出産したウガナー・ラムジーさんは、「何かがおかしい」と言われた。いくつかのテストの後、彼女と彼女の夫であるハワードは、彼らの新生児ビリー君は余分な染色体を持っていたことを知らされ、ダウン症候群と診断された。

夫婦はひどく打ちひしがれた。ようやく家に帰ることができたとき、医師はラムジーさんを個人的な話をするために残した。医師は、彼女を慰めようと、モンゴル生まれのラムジーさんに対して「おそらくダウン症は、彼女のモンゴル人の民族性のためにビリー君の外観にはそれほど目立たないだろう」と言い放った。

「それは私を不快にさせた 。」とラムジーさん(37歳)は言う。「私は傷ついた。私は彼らがその言葉で慰めになることを意味していることを知っていたとしても。」 それは、ラムジーさんの先住民族であるモンゴロイドと障害者の俗語との間に見知らぬ人が作った、多く連なる連想であった。

モンゴル、モンゴロイド、モンジー − これらは、ダウン症の人だけでなく、特別な障害を持つ人に対しても、愚人を攻撃する言葉と同様に、侮辱として使われ続けている。しかし、この連想はどこから来たのか?そして、それがモンゴル人にどのような影響を与えたのか?その答えを探すために、ラムジーさんはドキュメンタリー「The Meaning of Mongol」を制作し、今晩BBCラジオ4で放送している。



結局のところ、この言い回しはイギリスだけで使われているわけではない。ラムジーさんは、モンゴルはすべての大陸の20カ国以上で軽蔑的な言葉であることを指摘している。

彼女が「モンゴル」が別の意味を持っていることを初めて知ったのは19歳の時であった。ラムジーさんは英語を学びながら、育った西モンゴルのザヴハンで羊やヤギを放牧していた時、辞書を持ち出していた。言葉は彼女を魅了していた。ある日、彼女はモンゴル語を調べた。「モンゴルの人々」という一次的な意味だけでなく、その下には二次的な使い方があった。それは障害、特にダウン症に関係していた。

MongolMeaning
ケンブリッジ英英辞書のMongolより

「それはとても鮮明に覚えています」と彼女は振り返る。「私の民族を表す言葉が、別の意味を持っていることに違和感を覚えました。私は本当に理解できませんでした。それは私を不安にさせました。もっと知りたいと思ったが、私は10代だったので、そのままにしておきました。」

数年後、ラムジーさんはロンドンで外国語として英語を教える勉強をしていた。ある日、中国とフランスから来た二人のクラスメートが彼女に声をかけてきた。「モンゴルから来た人があなたのように普通で賢いとは知らなかったわ」と言われた。彼女は彼らが何を意味しているのかわからなかったし、彼女はそれを笑い飛ばした。

その後、彼女がスコットランドでキャリアアドバイザーとして働き始めたとき、教室や運動場で子供たちが侮辱として「モンゴル」という言葉を投げかけているのを聞いた。

「なぜ彼らがこのようなことを言っているのかを探ろうとしましたが、同僚は説明してくれませんでした」と彼女は言う。ラムジーさんが再びこの違和感のある連想に出くわしたことを、ビリー君の診断後、彼女はダウン症について読み上げていたときの出来事であった。

ダウン症の用語としてモンゴロイドやモンゴロイドが使われるようになったのは、1860年代にジョン・ラングドン・ダウンという医師が『Observations on an Ethnic Classification of Idiots(馬鹿の民族分類に関する考察)』という論文を発表したときのことで、彼はこの論文の中で、異なる種類の疾患を民族的特徴によって分類することが可能であると主張している。

Portrait_of_John_Langdon_Down_(c_1870)_by_Sydney_Hodges
ジョン・ラングドン・ダウン(John Langdon Haydon Down)
John_Down,_Observations
↑※ひどい内容ですが、この論文の英語の原典はNatureの以下のサイトで閲覧することができます:
OBSERVATIONS ON AN ETHNICCLASSIFICATION OF IDIOTS


それ以前は、ダウン症の人は単に「idiot(バカ)」と分類されていた。ラムジーさんのドキュメンタリーの中で、ダウンの伝記作家であるコナー・ウォード教授は、ダウンが優れた衛生士であり、学習障害を持つ人々のために王立アールズウッド養護施設(Royal Earlswood Asylum for Idiots)に採用された経緯を説明している。

ダウンは、彼が治療していた人々のグループに共通の外観を持っていることに気付き、その時に「モンゴル人の愚鈍性」という診断を下した。

1866年の論文の中で、ダウンは次のように書いている:「モンゴル人の大家族には、(彼の患者の中に)多数の代表者がいて、私がこの論文で特別な注意を払いたいのは、この分割についてである。非常に多くの先天性の馬鹿者は典型的なモンゴル人である(A very large number of congenital idiots are typical Mongols)。このことは、比較して見ると、比較された標本が同じ親の子供ではないとは思えないほど顕著である。」

他の箇所では、彼は頬の丸み、目の形、その他様々な身体的特徴について書いており、このグループの子供たちはモンゴル民族のタイプへの回帰であることを示唆している。アールズウッド養護施設でモンゴル民族の誰もが治療を受けたことを示唆する記録はない。

後にダウンは自分の研究を疑った。彼は10年の研究の後、骨相学への信念を捨て、人の性格や知性は頭の形や外見から推測できるという見解に背を向けていた。

しかし、彼の言葉の造語は続いた。

ダウンの同時代人たちも彼の理論に懐疑的で、医学論文では『いわゆるモンゴルの馬鹿(so-called Mongolian idiot)』という言葉を使うようになった。それからの100年間、ダウン症の人を表現するのにモンゴルが使われていた。

1959年にフランスの遺伝学者ジェローム・ルジューヌ(Jerome Lejeune)がダウン症の原因(21番染色体の余分なコピー)を発見した後、医学者たちがモンゴロイドやモンゴロイドとは別の用語を使うことを提案しはじめた。当時の著名な遺伝学者たちは(ダウン氏自身の孫を含む)、この用語が東洋の人種への軽蔑的なものであることを主張して、ランセット誌、世界有数の医学雑誌に共同で手紙を書き、この前提のための新しい名前を要求した。

モンゴル政府自身も見直しを求めた。モンゴル政府は1961年に国連に加盟した後、1965年に世界保健機関(WHO)に加盟し、「モンゴロイド」という名称の変更を求めた。それ以来、この障害は「ダウン症」と呼ばれるようになった。

「モンゴル」や「モンゴロイド」は1980年代までイギリスの病院で使われ続けた。ドキュメンタリーの中で、作家で映画監督のサラ・ボストンは、1975年に出産し、医師が 「あなたの子供はモンゴロイドです」と言って赤ちゃんを手渡したことを回想している。彼女がダウン症の子供を育てた経験についての本を書いたとき、出版社はタイトルに「モンゴル」という言葉を使いたがった。1991年のことである。

今でもモンゴロイドという言葉は、虐待や障害者への侮辱として使われてる。 リッキー・ガーヴェイスは2011年に 「ギャグ 」をリツイートして炎上した。「二人のMongs(モンゴル)が右に曲がることはない」とリツイートしたことで炎上した。彼は謝罪を拒否し、コメディーショー(スタンドアップ・ルーティン)にMong(モンゴル)を題材にした寸劇を追加したこともあった。結局、世間からの圧力を受けて、彼は身を引いて、この言葉を使ったことが間違いだったことを認めた。


↑Dailymail紙による炎上に関する記事

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↑炎上した リッキー・ガーヴェイスによるツイート(出典:Dailymailより)。上から「二人のモンゴル人は右に曲がれない。はは。この問題について最後の言葉だ。お疲れさん。」「モンゴルは『かつて』ダウン症の蔑称だったこと、ゲイは『かつて』幸せの意味だったことを指摘したみんな、よくやった。言葉は変わる。よろしくな。」「全ての知り合いのモンゴル人のためにリツイートしてくれ、あとモンゴル人をクソ黙らせろ」「モンゴルがなんだって?、のろまで、馬鹿な奴らのことだろ。俺はこの言葉をダウン症の意味で絶対に使わないけどな。」


↑Dailymail紙にて障害を持つ子供の母親が泣いたことを受けて「障害を持つ人たちを侮辱することに気付かず、この言葉を使うことに私は無頓着だった。」と謝罪をしている。しかし、この記事の中でモンゴル人やモンゴル政府に対して謝罪の言葉は一言も触れられていない。さらに、障害を持つ親ですらも「自分の娘が馬鹿にされている」とまで言っている始末である。

ラムジーさんにとって、祖国の人々の名前が不快な俗語にもなっている国で暮らすことは難しいことであった。彼女はダウン症スコットランドが実施した調査に関わるようになり、この言葉の使用がまだ10代の若者の間で流行っていることが分かった。「それは私を不快に感じさせ、動揺させた」と彼女は言う。「それは軽蔑的だった。モンゴル人と自己紹介している場合、人々はそれを違った聞き方をします。それは、人々が笑うので、自信に大きな影響を与えます。それはもう同じ言葉ではありません。」

そんな気持ちから逃れ、かつてのモンゴル人であることへの誇りを取り戻そうと、ラムジーさんは9月に8年ぶりに故郷に戻ってきた。彼女の訪問はドキュメンタリーの中で捉えられており、モンゴルの人々の気迫のこもった姿が描かれている。ラムジーさんにとって、モンゴル人に対する既存のネガティブなイメージを払拭するためには、彼女の同胞と女性の真実の描写を提示することが重要であった。

国連のページにあるPDFファイルのリンク:
Side event dedicated to the World Down Syndrome Day and CSW 60"Changing stereotypes against people with Down syndrome:THE MEANING OF MONGOL" 

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モンゴルの文化・スポーツ・観光大臣であるオユンゲレル・ツェデブダンバ(Оюунгэрэл Цэдэвдамба)氏はドキュメンタリーの中で、「モンゴル人は皆、自由を愛する民族です。」と言う。

この国の変化に富んだ風景には、なだらかな台地、砂丘、高山の森、氷河などがあり、ドキュメンタリーの中では、一連の撮影を通して、その姿が浮かび上がってくる。ラムジーさんは家族や友人を訪ね、ウォッカを飲み、馬糞(アルガル)を燃やして火を起こす。ラムジーさんは、人々がお互いの家を訪問するときに乳製品をお土産に持ってくるのは、白が純粋さと無邪気さを表しているからだと話している。

「他の場所と同じように、幸せな人と不機嫌な人がいます。」「でも、空はいつも青くて晴れていて、それが人々を少しだけ幸せにしてくれると思います。そして夜になると、そこでは最も多くの星を見ることができます」。

ラムジーさんの息子ビリー君は、生後わずか3ヶ月まで生きた。ドキュメンタリーの中の感動的なシーンの一つで、彼女はザブハンの家族に息子の写真を見せている。

「モンゴルでは誰かが亡くなると、その人は神になると言われています。」

ほとんどのモンゴル人は、世界的にモンゴル語が広く使われていることを知らない。「しかし、モンゴルでは誰もがモンゴル人なので、そのような問題に直面することはありません」とツェデバンバは指摘する。

ラムジーさんは、モンゴル語のスラングをやめさせたいと考えている。それは、彼女のためにも。

The Meaning of Mongolは月曜日の夜8時からBBCラジオ4で放送されています。(以下はポッドキャストのリンクです。番組を聞くことができます。英語の勉強にどうぞ。)



【筆者コメント】
なかなか衝撃的なのが、権威ある医者が堂々とIdiot(馬鹿者)やIdiocy(馬鹿、愚鈍)という言葉を論文に記載して発表して、それが受け入れられていたという点です。このため、モンゴル→ダウン症っぽい→だから馬鹿、というありえない、差別的な考えが広まってしまった結果になったと言えます。

160年前に英国の医者がこういってしまったために広がったMongolというダウン症を指す表現ですが、徐々に改善はされていますが、まだ2020年になっても罵り言葉で出てくるぐらいですから、この問題は根深いかと思われます。

また、子供を持つ親としても、ダウン症の子供が生まれたときどう接していくべきか、どう対応はしてくべきか、どう向き合うべきか、という心配もあるかと思います。

公益財団法人日本ダウン症協会は、以下のようにダウン症について説明しています:

Q1:ダウン症は病気ですか?
人間は一人ひとり、違いをもっています。ダウン症は、生まれつきの特性(性格や体質のようなもの)の一つと考えたほうがいいと思います。

Q2:なぜダウン症になるのですか?
私たちの体のたくさんの細胞の中には、46本の「染色体」というものが入っています。たまたまそれを47本もって生まれてきたのが、ダウン症のある人たちです。
偶発的に起こることがほとんどで、誰にでも起こり得ることです。600〜800人に1人の割合で生まれるとされています(引用元:小児慢性特定疾病情報センター)。

出典:公益財団法人日本ダウン症協会「ダウン症のあるお子さんを授かったご家族へ」より

欧州にいると、依然としてアジア人に対して見下したり、馬鹿にする人がたまにいますが、科学的根拠を以て、堂々と毅然とした態度で諭してあげる必要があると思います。

残念ながら、ドイツ語の辞書DUDENでも、Mongolchenという単語は、ダウン症を伴う子供という意味で説明されていますが、Educalingoというサイトで「蔑称的な下地のために今日では陳腐化している」という説明でとどまっています。
Screenshot 2020-11-09 004523
↑Educalingoよりhttps://educalingo.com/de/dic-de/mongolchen

しかし、たちが悪いのが、上述したF1レーサーやコメディアンからあるように、彼らは非があってもまず謝らないところがあります。すぐに泣き寝入りせず、あくまで論理的に客観的に証拠をもって毅然として対応する必要があるかと思われます。

日本人、韓国人、中国人、モンゴル人、これらの国の人たちはヨーロッパ人からすると見た目が似ているので、それだけで理不尽な目に遭うことがありますが、各自の文化に誇りをもって臨むべきでしょう。

また、筆者も親として3ヶ月で夭折したビリー君、また上のリンクに出てくるダウン症の子供たちどの子をを見ても可愛いと思えます。

今回は、ここまで。
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