私はよくYouTubeでモンゴルの音楽を聴く。最初のころ、繰り返し聴いたのは「taliin mongol ail」(タリーン・モンゴル・アイル)という作品だ。日本語に置き換えると「大草原のモンゴル人」といったところか。この音楽を聴いていると、モンゴルの風景、人々の生活を思い浮かべることができ、心が落ち着いた。
この作品は、ariunaa(アリウナ)という女性が歌って大ヒットしたという。モンゴルを知る友人の日本人は、アリウナについて「モンゴルの美空ひばり」と言う。曲目は違うが、私は、アリウナが、ナマで歌うのを2回聴いたことがある。
1回目は2011年8月、ウランバートルで開かれた結婚披露宴のときだ。アリウナが歌い始めると、みんな席を立って、彼女の周りに集まり、踊り出す人もいて、大いに盛り上がった。私は、アリウナが国民的な大歌手であることを実感した。
2回目は、2018年9月、新モンゴル日馬富士学校の創立記念パーティーのときだった。アリウナが歌い出すと、創設者・理事長の日馬富士さんらも舞台に上がり、一緒に歌って盛り上がった。
アリウナの「タリーン・モンゴル・アイル」をお聴きください。
この作品は、中国でも人気なようだ。Tsetsegmaa(ツェツェグマ)という、たぶんブリヤート・モンゴル人だと思うが、女性歌手の作品がYouTubeで見ることができる。
中国版は、ナレーションは中国語だが、歌はモンゴル語だ。画面のタイトルは「草原蒙古人家」。ほかにも漢字の説明が出るので、日本人にはなじみやすいと思う。
アリウナが歌う映像は、現代のモンゴルをイメージしたもののように私には思える。一方、ツェツェグマが歌う中国版は、古き良き時代のモンゴルを表現したもののようであり、牧歌的な雰囲気に満ちている。
私の独断と偏見では、中国は、だまし合い、ののしり合いの社会のイメージだ。そんなギスギスした社会で生きる人々にとって、大草原の遊牧生活は、癒しの世界なのではないか―。そんなことが想像できる映像になっていると思う。
もっとも、タイトルの「草原蒙古人家」について、モンゴル人留学生は「間違いです」と指摘する。モンゴル語で「アイル」は、家庭または家族の意味だという。家は、あくまで「ゲル」であり、「アイル」と区別している。「ゲル」のことを中国では「パオ」と呼ぶが、何でも漢字で書けばいいということではないようだ。
「タリーン・モンゴル・アイル」には、馬頭琴のオーケストラ版もある。
ウランバートルの国立ドラマ劇場を本拠地にする歌舞団が演奏している。歌なし馬頭琴だけの、ゆったりとした、しかし迫力ある演奏が楽しめる。
▽森修 もり・しゅう1950年、仙台市生まれ。元河北新報記者。1998年、山形市で勤務していたとき、たまたま入ったバーでアルバイトしていたモンゴル人の留学生と出会う。以来、モンゴルの魅力に取りつかれ、2005年「モンゴルの日本式高校」、2012年「あんだいつまでも新モンゴル高校と日本」をそれぞれ自費出版。
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