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 ユーチューブでモンゴルの音楽を聴いている。「モンゴルの美空ひばり」アリウナが歌ってヒットした「Taliin mongol ail(タリーン・モンゴル・アイル)」がいい。

この作品は、中国の内モンゴルでも人気なようで「草原蒙古人家」と漢字のタイトルのものもある。しかし、モンゴル人留学生Aは「モンゴル語のアイルは家庭、家族の意味です。家ではありません。モンゴル語で家はゲルです」と言う。なるほど、何でも漢字で表現すればいいというわけではない。

中国版「草原蒙古人家」はTsetsegmaという女性歌手が歌っている。ナレーションは中国語だ。画面にも漢字の説明が出る。しかし、歌はモンゴル語だ。のどかな雰囲気が伝わってくる。だまし合い、ののしり合う社会で生きる人々にとって、大草原の遊牧民の生活は、心安らぐ癒しの世界と映るのかもしれない。

このTsetsegmaと顔や声がそっくりなSesegmaaという歌手も登場する。彼女の歌に「Minii Buryad(私のブリヤー)」という作品あるので、ブリヤートに間違いないと思う。モンゴル人の元留学生Bによると、モンゴル人の名前のTsetsegmaはブリヤーではSesegmaaになるという。表記は異なるが、二人は同一人物なのか。

Sesegmaaが男性歌手と二人で歌う「Nartiin zamiidavmar baina」もいい。元留学生Cによると「旅に出たい」意味だという。しかし留学生Dは「直訳ると、日の当たる道を越えたい」だから「何か深い意味がありそう」と言う。

映像を見ると、舞台は「青、赤、青」の帯状になっている。モンゴルの国旗は「赤、青、赤」ソヨンボこそないけれど、この国旗を連想してしまう。国旗を踏みつけなが歌うのは失礼だ。なので、わざと帯の配置を入れ替えて、しかし何かのメッセージを込めたのではないか―と勝手に想像してしまう。

私はモンゴル語は分からない。どんな歌なのか。でも、切々とした何かを訴えるような響きが感じられる。留学生Aは「恋の歌じゃないですか」と言う。

ブリヤーといえば、司馬遼太郎の「草原の記」(新潮文庫)を思い浮かべるが多いのではないか。司馬の通訳を務めたツェベクマさんの悲しい物語だ。ロシアから中国のフルンボイル(ホロンバイル)平原、そしてモンゴル国へ、苦難の道を歩むブリヤート

鯉渕信一さんがツェベクマさんに聞き書きした「星の草原に帰らん」(NHKブックス)はフルンボイルでの少女時代が生き生きと描かれている。裸足で草原を駆け回る少女は、凍えた足を湯気が立つような牛の排せつ物に突っ込んで暖を取る…。野性味あふれるモンゴルの子どもだ。

ツェベクマさんは、その後、同じブリヤートの男性と結婚するが、文化大革命の騒動に巻き込まれ、夫と別れて娘を連れてモンゴル国に避難する。後々、夫とは再開を果たすものの、夫は騒動の後遺症を引きずったまま死んでしまう。この本は絶版になっている。文庫本で復刻できないものか。

「内モンゴルを知るための60章」(明石書店)には、フルンボイルの「シェネヘン・ブリヤート人」の「アルタルガナ祭り」について紹介している。アルタガナは草原の花だという。ユーチューブで公開されているSesegmaaの「Nartiin zamii davmar baina」は、画面を見る限り、このアルタルガナ祭りで歌っているようだ。ブリヤートの移住離散の苦難の道を表現している歌なのか、それとも単なる恋の歌なのだろうか


▽森修 もり・しゅう 
1950年、仙台市生まれ。元河北新報記者。1998年、山形市で勤務していたとき、たまたま入ったバーでアルバイトしていたモンゴル人の留学生と出会う。以来、モンゴルの魅力に取りつかれ、2005年「モンゴルの日本式高校」、2012年「あんだいつまでも新モンゴル高校と日本」をそれぞれ自費出版。


内モンゴルを知るための60章 (エリア・スタディーズ)
ボルジギン ブレンサイン
明石書店
2015-08-01



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