モンゴルの名称なのに、実際はモンゴルに関係ないモノやヒトが、日本にはけっこうあります。
今回は、そんな「モンゴルに関係ないモンゴル」にスポットをあててみました。


MONGOL800
「モンパチ」の愛称で親しまれる人気パンクロックグループです。
しかし、モンゴル800の名前の由来は、単なる思いつきだそうです。
ところが、奇しくも2006年、モンゴルは、チンギス・ハーンによるモンゴル建国800周年で、日本もモンゴルも祝祭や観光や映画などで、大いに盛り上がっていました。
つまり、モンパチがモンゴルと関係なくても、モンゴルがモンパチになっていたのです。
いつか、MONGOL800の皆さんには、モンゴルと関係のある歌を歌ってもらいたいものですね。


モンゴルマン
1980年代に大人気だった漫画『キン肉マン』(ゆでたまご)の登場人物。正義超人です。
「わたしの名はモンゴルマン蒙古出身の超人だ!!」でも知られています。
mongolman

しかし残念ながら、モンゴルマンはモンゴルと直接関係ありません。
関係があるとすれば、ラーメンマン(中国出身の超人)にも共通する辮髪(べんぱつ)のヘアスタイルが、モンゴルの隣のマンジュ(満洲。清王朝を建国した民族)のもので、モンゴルにも歴史的に似たような髪型がある位です。隈取のデザインも、モンゴルとは関係ありません。


ミス・モンゴル
女子プロレスラーの上林愛貴さんのリングネームのひとつがミス・モンゴルです。
twitterでお聴きしたところ、モンゴルには関係ないものの、モンゴルのことをぜひ知りたいとのことでしたので、近日中にモンゴル料理店などにお誘いできればいいな!などと考えています。 上林さん、モンゴルをよろしくお願いします!


蒙古覇極道
『キン肉マン』に並んで大人気だった漫画『北斗の拳』(原作:武論尊、作画:原哲夫)の悪役、ウイグル獄長の必殺技です。
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残念ながら、モンゴルにそのような技はありません。
また、ウイグルはモンゴルと異なる民族ではありますが、古代ウイグルはモンゴル高原の出身という説が有力で、モンゴル文字はウイグル文字をもとに誕生したという歴史があります。

ちなみに、モンゴルマンもウイグル獄長もいまだ根強い人気があり、フィギュアなども販売されたりしています。
日本のマンガ文化は凄いですね。

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『デトロイト・メタル・シティ』(若杉公徳)
このセリフも、モンゴルに関係ないモンゴルですね。
(関係あったら大変です。)


蒙古タンメン中本
東京を中心に大人気の劇辛ラーメン店。
現在「蒙古」と検索すると、日本語では「蒙古タンメン中本」がダントツでヒットします。
モンゴルとの関係については、2011年2月13日の東京新聞に、「寒い土地では辛いものを食べるんじゃないかというイメージで先代がつけた名前。モンゴルとは全然関係ないよ!」と、店長の白根誠さんが元気良く回答されいます。

ちなみに、内モンゴルでは唐辛子を使った辛い料理も食べますし、モンゴル国でも韓国料理店などで、モンゴル人も赤唐辛子を使った料理を食べます。しかし、モンゴル料理には辛い麺料理はありません。
モンゴル人が食べている麺料理には、「ゴリルタイ・ショル」という、羊肉と玉ねぎの塩味スープに麺を入れて煮た、しみじみと美味しい料理などがあります。
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これが、ゴリルタイ・ショルです。


蒙古斑
赤ちゃんの青いあざを日本では「蒙古斑」(もうこはん)と呼び、「モンゴル人と日本人が共通のルーツを持つ証拠だ!」といった、感動的なスピーチを聴くこともあります。
蒙古斑は、明治期の"Mongolenfleck"(モンゴルのあざ)からの訳語で、かつてはダウン症も"Mongolism"(モンゴル人症)と呼ばれていました。
当時の欧米では、かつてヨーロッパを侵略したモンゴルの血がこうした症状を起こすと考えられていました。
つまり、モンゴルに悪い意味をあてた言葉だったのです。
また、美容整形の分野でも同じ時代背景を持つ「蒙古ひだ」を、いまだに多く目にします。私は改称が必要だと考えています。


ヤマダモンゴル
後述する「ジンギスカン鍋」の有名チェーン店。店名の由来は、昭和初期に北海道の山田喜平さんが、ジンギスカン鍋を日本に広めたことからのようです。
しかし、ジンギスカン鍋にまつわるチンギス・ハーンの話は、史実ではありません。
「チンギス・ハーンは源義経だ」という話と同じレベルでの「物語」です。


モンゴルしゃぶしゃぶ

最近、羊肉のしゃぶしゃぶを唐辛子ベースの辛いスープで調理する「火鍋」が、「モンゴルしゃぶしゃぶ」「蒙古薬膳しゃぶしゃぶ」などの名前で紹介され、チェーン店も全国に展開しています。
羊肉の火鍋は、確かに内モンゴル自治区や内モンゴルに近い北京などで大人気のメニューですが、モンゴル料理ではありません。
お店によっては、モンゴルしゃぶしゃぶの由来としてフビライ・ハーンの伝説をうたっていますが、実際はそのような史実もありませんジンギスカン鍋と同じ「物語」です。
とはいえ、内モンゴル産の羊肉を使った、内モンゴル自治区の料理、という意味でなら、モンゴルしゃぶしゃぶはモンゴルとまったく関係ない、という訳でもないとも言えますね。


ジンギスカン鍋
北海道や岩手県などで名物として食されるジンギスカン鍋ですが、モンゴル料理には存在しません。
「モンゴル帝国の兜(かぶと)が鍋だった」という由来も、歴史とは関係ない、日本で生まれた物語です。
誰が始めたかは諸説あるものの、ジンギスカン鍋は日本で命名された料理です。

このジンギスカン鍋については、「日本人にとっては天皇と名のついた料理のようなもので、モンゴル人が怒るのではないか」と言及する書籍などもあり、実際に、日本でジンギスカン鍋を知ったモンゴル人も、首をかしげることがあります。

しかしジンギスカン鍋の由来を知れば、モンゴル人の皆様も納得?の背景が、そこにはあります。

日本で羊の飼育が本格的に導入された明治・大正期に、羊肉を食べる方法として開発され定着したのが、ジンギスカン鍋です。つまり、
「羊といったらモンゴル」「モンゴルといったらジンギスカン(チンギス・ハーン)」
という連想を、日本人の誰もが共有することが基本になっています。

現在、御料牧場の羊肉を使ったジンギスカン鍋が、宮内庁の園遊会や宮中晩餐会の正式メニューになっています。
日本人が羊肉に、かつて日本と弓矢を交えた世界最大最強のモンゴル帝国に思いを馳せ、羊肉料理にモンゴルの初代皇帝のチンギス・ハーンにあやかり「ジンギスカン鍋」と命名し、それが現在のヤポン・ハーン(天皇陛下のことを、モンゴルでは日本のハーンと呼びます)も食べる日本の宮中料理にもなっているわけです。

最近ではモンゴルと直接関係なかったはずのジンギスカン鍋にモンゴル国産の岩塩を使う店舗が誕生するなど、新しい傾向も見られます。

モンゴルに関係のないモンゴルから見えてくるモンゴル、いかがだったでしょうか。
あなたの身近にも同じようなモンゴルがあったら、是非ともモンゴルなう!にご一報ください。

※「蒙古」について
モンゴルを意味する「蒙古」は戦前まで日本も使用していましたが、今は漢字に悪い意味もあることから、学術上の記述などをのぞいては、「モンゴル」「モンゴル国」「内モンゴル」と書くことが一般的です。モンゴル人の皆様も国籍を問わずにカタカナ表記を望んでいます。

2012年1月27日
みずばしょう

参照Web:
NEWSポストセブン 2011年9月7日
(『週刊ポスト』2011年9月16・23日号)
http://www.news-postseven.com/archives/20110907_30257.html

ミス・モンゴル上林愛貴ラ・マルクリアーダ さんtwitter
https://twitter.com/#!/MALCRIAKYMON