【写真説明】新モンゴル工科大と新モンゴル高専(ウランバートル市バヤンズルフ区13番地区)
マブチ国際育英財団(千葉県松戸市)が資金を提供し、新モンゴル小中高(ウランバートル市)が運用する「新モンゴル・マブチ基金」という奨学金がある。モンゴルの大学で学ぶ若者向けの貸付型奨学金だが、先輩が後輩を指導する独自の方式を採用し、垂れ流しではない循環型を目指している。発展途上国への支援の在り方として、私は注目している。
マブチ国際育英財団は、マブチモーター創業者の馬淵隆一さんが個人資産約111億円(株券と現金)で2005年に設立した。これまでベトナム、カンボジア、モンゴルなどアジア各国から日本に来て学ぶ若者に、月額10万円の返済義務のない給付型の奨学金を支給してきた。
この実績を踏まえ、2015年、モンゴルの大学で学ぶ若者に、年額1500ドルの返済義務付きの奨学金をスタートさせた。書類選考と面接で毎年30人を選抜して支給しているが、応募者は100人に上るという。受給者は、新モンゴル高の卒業生は少ないそうだ。モンゴルでは、奨学金の絶対数が足りないので競争率は高い。
マブチ基金の奨学生には、メンター(助言者)という連帯保証人が付く。メンターは、新モンゴル高の卒業生で、マブチ財団などの給付型奨学金を受けて日本の大学を卒業した人がなる。メンターと奨学生は、年4回の交流会に出席しなければならない。また奨学生は、成績表の提出も義務付けられており、基準に達しない者は奨学金の支給が打ち切られる。
お金がないのなら支援してあげましょう―という給付型は分かりやすい。しかし、この場合、財源をどうするかの問題がつきまとう。返済義務がある貸付型は、銀行の教育ローンなどさまざまあるが、利息が付くので、返済にまつわるトラブル問題が発生する。
マブチ基金の奨学金は、利息なしだ。教育ローンとは全く異なる。これでも返済できない事例は出てくるだろう。しかし、返済金は、次の世代のために使われる。財源問題は生じない。給付型が「垂れ流し」なのに対して、こちらは「循環型」であり、信頼関係が構築できれば、いつまでも続けることができる。
モンゴルでは、日本のODA(政府開発援助)で新空港の建設が行われ、近く開業する(工事は終わったが開港が遅れている)。約500億円の巨大プロジェクトだ。こうしたインフラ整備は確かに必要だ。しかし、巨額資金を使わなくても、発展途上国を支援する方法は、いっぱいあるように思う。
新モンゴル高は、山形などの市井の人々が支援して誕生した。学校をつくるのなら、柱の一本ぐらいは協力しましょう―という、ささやかな取り組みだった。その後、全国各地で、新モンゴル高との交流が始まった。さまざまな交流が進む中、この学校とマブチ財団にも信頼関係が生まれ、それがマブチ基金につながったと、私は見ている。
新しいマブチ基金の奨学金について、私は、いろんな人に意見を聞いた。3年前のことだが、東京の大使館に勤務していたモンゴル人は「そんなの、うまくいくわけ、ないでしょう」と言い切った。モンゴル事情に詳しい日本人は「利息なしなら、そのお金をモンゴルの銀行に預ければ、モンゴルの金利は高いから、利殖に使えるのではないか」と解説した。二人ともモンゴル向け貸付型の奨学金には懸念を示した。
一方、東北大の大学院で学ぶオブス県出身のモンゴル人は「確かに返済できない人が出てくるかもしれない。でも、モンゴルでは、お金がなくて進学をあきらめる人が多いので、とてもいいことだ」と肯定的な意見だった。
皆さん、どう思われますか。給付型の奨学金は確かに必要だ。しかし、貸付型にも、いい面はあると、私は考える。信頼関係があれば、自助努力を促す効果は大きいのではないかと思う。
▽森修 もり・しゅう
1950年、仙台市生まれ。元河北新報記者。1998年、山形市で勤務していたとき、たまたま入ったバーでアルバイトしていたモンゴル人の留学生と出会う。以来、モンゴルの魅力に取りつかれ、2005年「モンゴルの日本式高校」、2012年「あんだいつまでも新モンゴル高校と日本」をそれぞれ自費出版。
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