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チンギス・ハーン冒涜にはなぜモンゴル民族は激怒するのか


      周知の通り、チンギス・ハーンは13世紀初めにユーラシア大陸を席巻した大モンゴル国を創建し、モンゴル民族の名を世界に轟かせた人物である。しかし、チンギス・ハーンは単なる歴史人物ではない。モンゴル民族の人々に祖先として崇められ、チンギス・ハーン信仰として人々の心に生きつづけているからである。

    各種書物にチンギス・ハーンは「モンゴル民族の英雄」として書かれる場合が多いが、モンゴル民族にとってチンギス・ハーンは「英雄」を遥かに超える存在であり、その精神世界を支える神様である。いくつ例を見てみたい。

     モルゴル国では、政府宮殿の前にチンギス・ハーン像があり、大統領就任式など重要な国事はそこで行われ、チンギス・ハーンの前で宣誓する。また毎年7月11日に開催される国家儀礼としての国家大ナータムでは、政府宮殿からチンギス・ハーンのツァガーン・スルデ(九柱白幟旗)を騎兵儀仗隊が中央スタジアムに招き入れ、会場に立てることになっている。大統領はその前で開閉宣言をする。また開会時に国家首脳や大会に参加するすべての力士などが順次にチンギス・ハーン像に祈りを捧げる。2012年にモンゴル国政府はチンギス・ハーン生誕の日を「モンゴルの誇りの日」と制定している。そのようにモルゴル国ではチンギス・ハーンは独立、主権、国民結束の象徴となっているのである。

     一方、内モンゴルの場合、オルドス市エゼンホローに有名なチンギス・ハーン陵があり、モンゴル民族の聖地となっている。そこでは一年の各季節にチンギス・ハーン祭礼が行われ、各地のモンゴル民族の人々が礼拝する。その祭礼は800年以上チンギス・ハーンの聖霊を守り続けてきたダルハッドという集団が執り行うことになっている。これに関して楊海英氏の研究著作が多いのでここで詳述は割愛したい。

      またモンゴル民族の人々はほとんど例外なく自宅にチンギス・ハーン像を大切に掲げて、チンギス・ハーンの末裔であることを再認識し、誇りに思っている。特に内モンゴルなどのモンゴル地域では、たとえモンゴル語が話せなくても自分たちをモンゴル人としてチンギス・ハーンの末裔として誇りに思う人たちも多い。

      以上、モンゴル民族におけるチンギス・ハーンの位置付けを略述してみたが、モンゴル国、内モンゴルなどモンゴル地域において、チンギス・ハーンはモンゴル民族の精神的支柱であり、もっとも大切な信仰なのである。チンギス・ハーンは英雄を超えた、誇り高きモンゴル民族の祖先であり、神様である。

     そんなチンギス・ハーンの肖像に性器が書かれてはチンギス・ハーンへの侮辱として、モンゴル民族、国家への侮辱として、信仰への冒涜としてモンゴル民族の人々が憤慨し、抗議するのは極めて当然であろう。チンギス・ハーン侮辱は到底許されない蛮行である。文明の国日本にあってはならないことである。また子供向けの雑誌でありながら、偉人たちの顔に落書きをさせるコンテストを行うこと自体モラルの上でも教育的視点からも極めて不適切であり、社会的問題となっているイジメの助長にもなりかねないと考えている。日本のモンゴル史とチンギス・ハーン研究は、世界にも誇れる業績を上げている。しかし、今や小学館のような出版社は、金儲けだけに走って、歴史研究と背景を踏み躙っただけでなく、モンゴルの先祖への冒涜を犯し、日本の子供の教育にも邪見を植え付けていることは極めて遺憾である。

       小学館発売の『コロコロコミック』3月号は落書きコンテストとなっているので、これからも聖主チンギス・ハーンの顔にいろいろ落書きがされる可能性がある。われわれは同誌の即時発売停止と回収、そしてモンゴル民族の人々への謝罪を強く求めて、明日月曜日、13時から同社前で抗議活動を行うことを決意した次第である。モンゴル民族の人々だけではなく、われわれの趣旨に賛同される全ての方々のデモ参加を呼びかけたい。


寄稿者

富川 力道(B.Bold)

日本ウェルネススポーツ大学 准教授

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